2009/03/26

Re:もう一度観たいなあ(03/26)

以下は映画「ひなぎく」の感想です。内容のネタバレも含んでいます。この先を読むかどうかはいま決めて。(^^;)



アルバム 街(20070328)



スクリーンにいきなり写し出される青。空だ。そこにとても美しいオレンジの火球が広がる。ん?なんだろう?





特徴的な木の葉のような形をした翼が画面を横切る。RAFの同心円マーク付いてなかったか…スピットファイアじゃぁ…。左に逃げたと思ったら、また画面の真ん中に出てしまう。カメラはその機体にぶつかりそうな勢いでぐんぐん近づいている。


画面横から曳光弾が飛んでいることに気づく。発射の振動でブレた軌跡を描きながらコクピットに吸い込まれてゆく。オレンジの中心と黒い縁取りの火球が広がる。爆発した機体から主翼がちぎれて、回転しながら吹き飛ばされる。


ああ、誰かが死んだ。





と、カットが変わってまた別の逃げる英国空軍機。カメラは左下にねじり込むように急降下していく。機体が画面の中心に捉えられていく、Gがいっぱいかかった状態で一連射。爆発。なんて美しいオレンジ色なんだ。





次は空中から地面を舐めるように写していく、地面に機銃掃射の土撥ねがミシンのように…。





なんだこれは!


第二次大戦、枢軸側戦闘機、戦果判定用ガンカメラのフィルムじゃないか!





カラーだ。カメラはきっとアリフレックスのガンカメラ。元々この目的の為に開発された高精度な映画カメラ。戦闘機の機関砲と一緒にカメラを取り付けて、発射した時の映像を記録するカメラ。後で見れば混乱した戦闘の中でも何機を撃墜したかが分かる仕組み。そのフィルムには数限りない死が記録されている。





青い空に火の玉の、あまりにも美しい映像の中で実際に若者達が焼かれ、引き裂かれて死んでゆく記録フィルム。何度も何度も繰り返し。





なぜこんなに美しいんだ、くそ。


あまりに怖くて悲しくて背筋が凍り付く映像。





そのオープニングから二人の女の子のお話が始まる。


もうどんなに美しい映像が現れても、その下に死が隠されているように思えてしまう時間の中で語られる女の子達のスラップスティックコメディ。











ひなぎく」という映画があります。前から人に見ることを進められてました。実験映画っぽいけれどとてもおしゃれな映画だから実験映画っぽくて暗い映画ばっかり撮っている私のお勉強にちょうどよいだろうから観とけと。


1966年のチェコスロバキアの映画。監督はヴェラ・ヒティロヴァー。元ファッションモデルさんだったかな。





それの上映を観に行ったのはもう一年ぐらい前。でもどうにも話せない書けない。ようやく最近なんとか消化できるような気がして書いてます。





おしゃれ映画!女の子映画の決定版!ってアオリ。


会場もそんな感じの女の子と男の子がいっぱい。





オープニングにやられてからは、ちょっと泣きそうになって観てた。





確かにおしゃれな映画だ。でもこの映画をそんな風に消費しちまっていいのか…。


地獄のふちで軽やかに踊ってみせる。それは確かにおしゃれだ。粋の極み。


この監督、この映画になんて爆弾を仕込んだんだろう。


ファッションの商品として消費される事もあえて乗るんだね。





プラハの春とソ連の弾圧と恐怖政治が始まるのが1968年(S43)。この映画はその2年前。あまりといえばあまりな話。これを撮っている時はまだ弾圧の前だったんだ。


ボロボロの包帯を着てイバラで縛られて働かされながら「わたしたち良い子になります」


…胸がつぶれそう。





二人が騙したじいちゃん達を駅で見送るシーンが何回もくり返される。


第二次大戦から21年後…。もしかしたらソ連あたりの高官が食えない女の子を買いに来るなんて状況もあったのかなぁと想像してしまった。





原色分解した画面や、染色、画面分割して再構築など、ファッション誌のような技法のオンパレード。すごく上手い。





ラストクレジットタイトル。


タイトルバックはまっ赤に染めたモノクロ映像。低空からの空撮で原野らしき場所が流れてゆく。破壊された教会の尖塔らしき廃墟がフレームインしてくる。爆撃で破壊された村だろうか…。このカメラが載っているのは偵察機なのかもしれない。第二次大戦の空軍関係のフィルムストックで最初と最後を包んだのかもしれない。





そしてそのおどろおどろしい赤と黒の画面にこういうタイトルが入る。


「踏みつぶされた野菜だけをかわいそうと思わない人々に、この映画を捧げる」





これは怨み節だ。虐殺の告発だ。





なんて映画を作ったんだろうと思う。上映禁止喰らっただけですんで良かった。粛正される危険性もあっただろうに。


深い意味をたくさん隠していそうな映画。









監督=ヴェラ・ヒティロヴァー


原案=ヴェラ・ヒティロヴァー+パヴェル・ユラーチェク


脚本=ヴェラ・ヒティロヴァー+エステル・クルンバホヴァー


撮影=ヤロスラフ・クチェラ


音楽=イジー・シュスト+イジー・シュルトゥル


出演=イヴァナ・カルバノヴァー(マリエ1役)/イトカ・チェルホヴァー(マリエ2役)/他


1966年/カラー/チェコ・スロバキア/75分






2 件のコメント:

いちご さんのコメント...

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なぜかそのオープニング、記憶にないんですよ。。。
おしゃれな実験映画として、参考になった技法がいくつかありました。センスいい監督さんですよね。

竜屯 さんのコメント...

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いちごさん。
あの唐突なオープニングは短いフィルムの連続だったし、多分なにがなんだかって感じかもしれません。だから最後のタイトルバックも字幕も唐突に意味不明だったのかも。
見たとき客席の雰囲気もそんな感じがありました。
だから余計にショックを受けたのかもしれません。
それでいつか書かないとととも思いつづけていました。
私も、また見直したいです。
監督があの映画に隠したパワーがものすごいんだと思います。
秘すれば花。だからスラップスティクなのにちゃんと何かしらの説得力が生まれたような気がしてます。n